近年、採用難などを背景に「アルムナイ」、すなわち卒業生コミュニティを立ち上げる企業が急増しています。
一般的な特徴は、以下の通りです。
・一言で言えば、退職者コミュニティ
・汎用SNSや専用のITツールで繋がり、やり取り
・対面イベントも開催
・会社が予算や人員を割いて運営
・目的は「カムバック採用」が多い
・現役で働いている人が対象
とはいえ、個々で見ると様々なバリエーションがあります。
・バイト、インターン、元内定者すら参加できるところも
・現役社員や定年退職者も参加可能なところも
・グループ会社まで範囲となるケースもある
企業がアルムナイを立ち上げるのは新しい動きで、日本独自の要素もあり、「企業アルムナイ」の定義は確立してません。
そこで、その定義や要素について、今回は歴史的経緯を踏まえて整理してみようと思います。
1)そもそもは”学校”の卒業生コミュニティ
alumniとは「学校の生徒または卒業生」を意味する英語alumnusの複数形です。慶應義塾大学の三田会が有名でしょう。
大学のアルムナイと企業との違いを比較すると、以下のようになります。
- 時期・期間:同じ(10代後半~20代前半の4年間)
⇔企業:入社年齢も在籍期間も異なる - 状態:社会的な立場が固まる前の青春期・人格形成期
⇔企業:立場がある程度固まったビジネスパーソン - 関係:上下関係は会社ほど強くない
⇔企業:役職の上下関係がある - 共通経験:似たような学生経験をする
⇔企業:職種、部門、職位による違いが大きい - 卒業:必ず「卒業」し、多様な分野で活躍する
⇔企業:大半を同じ会社で過ごす人もいる、業界は絞られる
学校のアルムナイは情緒的な繋がりが強く、企業のアルムナイは実利のウエイトが高い傾向にあると考えられます。
因みに、新卒一括採用が一般的な日本企業では、新卒同期の情緒的なつながりが強いのも、学校と似た部分があるからでしょう。
2)欧米企業の「アルムナイ」
欧米では、日本より早く転職が一般化し、元同僚が他社で活躍している状態が当たり前でした。
日本においても、多様な有力企業の肝要なポジションに散らばった卒業生によるクローズドな繋がりの中で、新たなビジネスや転職などの情報交換をしていくようになります。
例えば、2000年代初頭に私がSIerの営業をしていた時、主要ERPベンダーの日本代表は軒並み日本IBM出身者で、元の会社から人材をヘッドハントし、元の会社と組んで、日本市場の開拓を成功させていました。
3)日本の人材輩出企業の先駆例
かつて日本企業では、新卒で「就社」したら定年まで務め上げるのが普通でした。
辞める人の数自体が少なく、転職=裏切り=縁の切れ目や落伍者、という感覚もあり、卒業生と繋がることは稀でした。
とはいえ例外もあり、今でも人材輩出企業として知られるリクルートなどは、昔から35歳までに他の会社にヘッドハントされるか、自分で会社を興すかして、会社を「卒業」しなければならないという文化が、社員に浸透していました。
実際、数多くのリクルート出身者が起業していましたし、有名企業の新規事業責任者や幹部に、リクルート出身者が多かった印象があります。
こちらも外資系同様、自主的につながって、お互いのビジネスにつなげていました。
4)SNSと転職の一般化で、アルムナイが更に増える
インターネットが普及する前は、人のつながりを維持するの手間がかかるため、アルムナイを作り運営するのは、よほど強いインセンティブや文化がある会社や業界に限られていました。
しかし、SNSやスマートフォンの普及にのり、つながりを作り維持する手間が大幅に下がりました。
同じタイミングで転職が当たり前になりました。破綻やリストラが相次ぎ、日本の大企業の魅力や安定性が下がったことに加え、外資系やベンチャーという新たな選択肢も増えたためです。
こうして、三井物産の「元物産会」のような、卒業生が自主的に運営するアルムナイも増えました。
4)別の流れとしての「社友会」
上記のようなアルムナイとは別の流れで、伝統的な日本の大企業が、終身雇用時代から運営する「社友会」のような集まりもありました。
これは、会社が、定年退職した人達を労うために提供する場で、アルムナイと比べると、以下のような特徴があります。
- 目的:勤め上げた人への慰労=会社の実利は特にない
⇔企業の課題解決が目的(採用など) - 対象:定年退職者、平均年齢70歳超えも普通
⇔現役ビジネスパーソンが対象 - 活動:趣味的なもの(句会とか山歩きとか)
⇔ビジネスに役立つ活動 - 前提:終身雇用が当たり前
⇔転職が一般化
5)近年の「企業アルムナイ」
これら背景を踏まえると、近年の企業アルムナイの特徴も見えてきます。
卒業生主体のアルムナイと比べると、以下のようになります。
- 主体:企業が運営
⇔卒業生の自主運営が多い - 目的:自社の課題解決(採用など)
⇔卒業生自身のベネフィット(営業、転職、起業など) - 収支:会社が予算を出す
⇔自主採算 - 対象:ビジネス現役の卒業生が中心
⇔同様 - 活動:交流会やセミナー等、ビジネスに役立つもの
⇔同様 - ツール:専用ツールを使う場合も
⇔無料の汎用ツールが基本(Facebookなど)
他に、卒業元企業の傾向として、以前はリクルート、IBM、三井物産といった「人材輩出企業」に限られていましたが、近年は、それら企業と比べると「普通」の企業が立ち上げています。