採用目的のアルムナイが失敗する理由

先日、他企業アルムナイの運営者などと、アルムナイについて書かれた記事があまりに薄っぺらいものばかり、という話で盛り上がった。

大半の記事は、判で押したように「アルムナイをやるとカムバック採用で採用コストが抑えられる」など、会社視点の話ばかり。

具体的にどうすればいいかも書かれていない。

アルムナイ運営企業一覧も、入っているべきところが抜けている。

1記事数千円の素人ライターがネット情報をまとめたコタツ記事レベルが大半だ。

読むに値しない記事が溢れれば、真っ当にアルムナイを作ろうとしている人を失望させ、ミスリードしかねない。

1,000人規模のアルムナイを立ち上げた当事者かつコミュニティの専門家で、ライターでもある身としては、劣悪な記事が健全なトレンドを阻害するのは耐え難い。

よって、何が問題で、本来どうすべきか述べてみようと思う。

参加者価値を考えていない

「採用コストが下がる」
「育成やカルチャーフィットの手間が省ける」
「人手不足が解消する」

これら、大半の薄っぺらい記事に書かれている表現には、会社のメリットしか言われていない。
アルムナイというコミュニティの主体は卒業生であって、会社ではない。

ユーザーメリットを明示しないユーザーコミュニティがどこにあるか。

当事者の立場になって考えれば1秒で分かる間違いが平気で書かれている記事も多すぎる。

アルムナイのメリットが「出戻り採用」?
辞めた会社に戻りたい退職者がどれほどいるか。
「会社に戻れますよ」というメッセージで釣られて来たような人々と、生ぬるい交流をしたいと思うか。

忙しいビジネスパーソンがネットワーキングの場に何を目的として行くか考えてほしい。
成長機会を求めて外に出て活躍している人に戻ってきてほしいなら、過去にはなかった新たな機会を作ることが先だ。

コミュニティの理解不足

会社組織や取引関係と異なり、コミュニティには指揮命令系統も強制力もない。
卒業生はもう社外の人だ。
社員のように強制力で従わせることはできない。

「アルムナイのサイトを作りました」では登録も活用もしてくれないし、「イベントやります」では誰も来ない。

実際、メディア記事に成功事例かのように紹介されているアルムナイが会社主催イベントを企画したら、数人しか申込みがなく中止したとの話も聞く(因みに某メディアは、それは知ってて書かなかったらしい)。

運営側がなすべきは、知恵を絞って参加したくなるイベントやシステムを企画すること。できるのは提案まで。
相手に自ら動いてもらうしかない。

コミュニティの基本は「相互利益」。
参加者に価値を提供することで自主的な参画を促し、結果として自社の目的を達成するのだ。

「再雇用の募集をした」「イベントをやった」という提供視点しか書いていない記事には、この観点が抜けている。

サラリーマン事務局の話しか聞いていない

人を巻き込むにはベネフィットが必要だ。
しかし、これから立ち上げるコミュニティには当然何の裏づけもない。

この「鶏と卵」を打破して人を巻き込むには、発起人個人が「このコミュニティはこうなる、こうする」という魅力的な未来をクリアに描き、情熱をもって人に伝えて心を動かす必要がある。

降ってきた仕事をこなすサラリーマンに、それができるか。
会社を辞めたことのない勤め人が、当事者の気持ちになれるか。
異動がある会社員が、継続的に活動できるのか。

もちろん、できる人は稀にいる。
しかしそれは、できる個人がたまたまサラリーマンをやっているだけだ。

私は、アルムナイは当事者である卒業生主体で運営するのが理にかなっていると考える(コンサルなど、例外もある)。

実際に最近、14社ほどの活発なアルムナイ運営者を繋ぐグループを作ったが、参加してくれたアルムナイのほぼ全てが、卒業生主体で企画・運営していた。
ソニーの有志アルムナイも、会社から1円も貰わず、卒業生ボランティアで運営している。

会社側の役割は、最初に方針をすり合わせ、何か判断が必要なことがあれば都度協議して合意するのみ。
(会社によっては、予算、人員、PR、会場提供、経営陣の登壇など、可能な範囲で協力するところもある)

このような実態にまで踏み込んで書いてある記事も殆ど無い。
業務として表面的にこなしているサラリーマン事務局にしか話を聞いていないからだろう。

ソースがネット情報ばかり

少なからぬ記事において、事例に挙げている会社の多くが「アルムナイ始めました(≒ツール導入しました)」とリリースしている会社ばかりだったりする。

ネットですぐ出てくるからといって、実体ある活動をしているかは別の話。

私自身アルムナイ運営者であり、活発なところはそれなりに知っているつもりだが、「本来入るべき、実質ある活動」をしているアルムナイがむしろ抜けてたりもする。

実は、実態のあるアルムナイは小手先の検索では見つからない。

上で述べたように、アクティブなところは卒業生主体で運営しているケースが多く、会社がページまで持っているところは限られているし、会社がリリースを出すこともほぼないからだ。

活動をリードしている真の運営者を探し、生の声を聞かねば、中身のある記事は書けない。

それらを探し出すことを怠り、小手先の調査でお茶を濁し、検索ですぐ出てくるリリースや提灯記事だけに頼るから、コタツ記事しかできないのだ。

アルムナイ立ち上げ=ツール導入と勘違い

ツールを入れればアルムナイが立ち上がると勘違いしている人もいる。

システムは、実体ある活動をより有効にするために作るものだ。
実体がなければ、要件は固められない。
要件が曖昧なシステムを作っても、金をドブに捨てるのがオチだ。

私は昔、システムの営業をしていたが、「上から振られたから、とりあえずシステム導入して、何かやったことにしよう」というサラリーマン発想による既成事実づくりをよく見た。
意図的にやっているなら「悪」だし、気づいてすらいないなら「愚」だ。

ソニーの有志アルムナイも、登録が1000人を超えた今でもFacebookで回しているが、それで困ることはない。
そのレベルに達してもいないところがシステムにお金をかけて投資対効果があるのだろうか。

魅力的なコンテンツも考えずにツールや仕組みばかり考えるのは、商品企画も営業もせずに、管理やシステムのことばかり議論するようなもの。

まずは参加者価値を定め、継続的に提供できる仕組みを成り立たせてほしい。

具体的には以下となるだろう。

1)自社の目的やコンセプトを固め、
2)イベントなどいくつかの施策を試して参加者ニーズを検証し、
3)主体的に参画する初期メンバーを集めて繋げ、
4)主体的に活動できる環境を整え、
5)自走の一歩を、手を替え品を替え後押しする

まずは、本質的な価値を具現化することに注力してほしい。


真摯にアルムナイ作りに取り組んでいる身からすると、盛り上がりに便乗したような程度の低い記事の数々に軽い怒りを覚えたため、本来あるべき姿を伝えるべく、ちょっと毒を吐いてみた。

他アルムナイの運営者たちとも、パネルや記事など実のある発信をしていこうという話もしている。

アルムナイを作りたいという人は気軽に相談してほしい。
最近も数社、相談に乗ったばかりだ(軽いものは無料で対応している)。
取材もWelcome(笑)

ぜひ一緒に、良いアルムナイを増やしましょう。

ご参考:アルムナイのつくり方

conecuri合同会社

ソニーグループOBOGで、ビジネス等で現役の方々を対象とした、有志によるアルムナイ・コミュニティを立ち上げました。半年で…