地域にも「アルムナイ」を

近年、地方ではコワーキングスペースやゲストハウスなど「人が集まる場」ができ、そこで人を繋げコミュニティを活性化する人材が増えてきました。

私自身、過去5年・約60回のワーケーションで様々な地域を訪れる中で、そんなことを実感しております。

先日、ある地域のコミュニティリーダーと話す中で、新たな移住者や現住民をつなげる取り組みに比べ、地域を離れた人々のコミュニティ化は案外盲点になっているのではないか、という話になりました。

そこで、地域の”卒業生”を繋ぐ地域アルムナイ(卒業生コミュニティ)という考え方を提案したいと思います。

地域アルムナイとは?

「アルムナイ」とは、本来、卒業生やそのネットワークを指す言葉です。
本記事では、地域を離れた元住民・元勤務者などを緩やかに繋ぐコミュニティを地域アルムナイと定義します。

地域アルムナイは、住んでいた人や働いていた人が、地域のファンとしてのつながりを維持し、新たな人を呼び込む役割を果たすことで、地域にとっての資産になります。

メリット

  1. 熱量の高いメンバーが集まりやすい
    • 住む・働くというハードルを超えた経験があるため、地域への関心や愛着がある人が多い
  2. 地域の広報・PRにつながる
    • 元の地域を深く理解し、愛着もあるので、魅力を発信してくれる
    • 地域の認知・評判が向上し、コラボなどの機会増加につながる
  3. 新たな人を呼び込む可能性がある
    • 他の地域の人を紹介・誘致してくれることもある
  4. つながりが生まれやすい
    • 元々熱量が高く主体的に活動していた人同士なら自主的に交流やコラボレーションが生まれやすい
    • 各地域のキーパーソンとの関係性ができているので、話を早く進めやすい

比較1:幅広い人が参加する地域コミュニティ

参加資格が幅広いコミュニティは、多様な人が参加でき、人数を増やしやすい一方、参加者の関心や熱量の幅が大きく、人のマッチングが難しくなりがちです。

一方、地域アルムナイは、もともと地域に深く関わっていた熱量の高い人たちに敢えて参加資格を絞るので、人数は限られるものの、関係性が深まりやすく、自主的な活動が期待できます。

比較2:県人会

昔からよくある県人会は、大学進学や就職などで自分が生まれ育った故郷から上京した人が、東京などの都市部で集まるもので、良くも悪くも昔から連綿と続く先輩後輩の関係を引きずったもののイメージです。

これに比較して「地域アルムナイ」は以下のような特徴があります(カッコ内は、比較対象としての県人会)

  • 対象地域:大人になってから、自分で選んだ地域(生まれ育った=自分では選んでない)
  • 活動場所:地域(都市部)
  • 参加者属性:新住民が中心、出身の地元民だとしても、新住民的なマインドをもつ人(出身者)
  • マインド:一般的にオープン(一般的にやや排他的で内向き)
  • 関係性:フラットで対等(先輩後輩など上下関係がある)
  • 活動趣旨:共にコトを起こし、価値を共創する「アウトプット」が中心(懇親=関係維持が中心)
  • 歴史・背景:最近の移住などの増を背景とした新しい動き(昔からある)

企業アルムナイで喩えるなら、県人会は社友会(終身雇用時代に作られた、定年退職者が主対象の、余暇目的の集まりで、先輩後輩・役職上下などの関係を引きずる)のような感じかもしれません。

ターゲットは「別れても、好きな人」

地域を離れる理由は、嫌いになったからとは限りません。

そもそも嫌で出ていった人は「アルムナイ」には入らないでしょうし、わざわざ入れようとする必要もありません。

入ってもらうべきは、ポジティブな気持ちを維持したまま、新しい地域に転進していった人々です。
例えば、家族含めたライフステージの変化や、転勤や転職などのキャリアアップなど、転居する必要があった人や、数年ごとに場所を移すエネルギッシュな移住者・多拠点生活者などです。

そういう人は、元いた地域に愛着を保ち、そこの人たちとつながり続け、何か役に立ちたいと思っているものです。
実際、私もそういう場所を持っています(逆に、出身地には微塵も愛着がありません 笑)。

地域アルムナイを立ち上げる

1. 参加資格を決める

基本的には、地域に深く関わっていた人を対象とします。

  • 元・在住/在勤者:住んでいた、仕事をしていた人
  • “深い”関係人口:多拠点居住、地域プロジェクト等で関わっていた人
  • 出身者:生まれ育った人

2. 仕掛けを作る

A)繋がるプラットフォームを立ち上げる

  • 参加者や運営者が普段使っているものや、想定するコミュニケーションの形などに応じて、最適なものを選ぶ
    例)Facebookグループ、Slack、Discord、LINEなど

B)発信の場をつくる

  • 多くの人に情報を伝える基盤を整える(運用できる1つか2つに絞る)
    例)note、Instagram、YouTube、X、メールマガジン、Podcastなど

C)イベントを開催する

  • 場所を問わず集まれるオンラインイベントを企画する
  • 地域イベントと連携し、思い出の地に帰る&再び仲間と集まるキッカケをつくる
  • 相手の場所で集まるミニツアーなどを企画する

D)マッチングする

  • 運営メンバーが、メンバー同士のマッチングを促し、サポートする
  • プラットフォーム上のコミュニケーションが活発になれば、自発的に発信・拡散・応募が起こることも

とりあえずやってみよう

企画や計画を詰めてからとか、運営メンバーを集めて合意形成してからとか、あれこれ小難しく悩むと、ムダに時間が経ってしまいます。

「案ずるより産むが易し」で、まずは気軽に、繋がる仕組みを作ってみてはどうでしょう。

移住者は、色々な障壁を乗り越え、自ら未知の地域に移り住み、ご縁を広げたような「自ら機会を作り、自ら行動する」人々です。
ちょっとしたキッカケさえ作れば、運営が何も手を出さなくとも、自発的にコトを起こすでしょう。

そんな訳で、良いコミュニティが増えるお役に立てれば幸いです。