アルムナイ等のコミュニティ専門家が、長年の経験を基に、企業アルムナイを適切に立ち上げ、効果的に運営するための実践知をお伝えする「企業アルムナイの教科書」。
「似た取組」との比較を通じて、アルムナイの特性をより解像度高く説明するシリーズの第3回は「社友会」との比較です。
社友会とは
社友会は、企業が長年勤め上げた社員を労い、退職後も良好な関係を保つ目的で運営する会で、「伝統的」な大企業が運営しているケースが多いです。
終身雇用の時代に立ち上げられたものが多く、参加者の多くは定年退職者で、活動もハイキングや俳句など、余暇的なものが中心です。
社友会と企業アルムナイの違い
両者はいずれも企業の卒業生の集まりである点で共通していますが、対象者や目的の違いから、いくつかの差異が生じます。
以下では、それぞれの特徴を比較することで、企業アルムナイの特性を浮き彫りにしていきます。
背景と目的:福利厚生か、ビジネスか
社友会は、昭和の高度成長期のような、新卒一括採用・終身雇用の時代に、勤め上げてくれた従業員を労い、退職後も会社と良好な関係を保つ、福利厚生的な目的で設立されました。企業は、ビジネス上のリターンを期待せず、活動経費はコストと考えます。
一方、近年の企業アルムナイは、自社の課題解決を目的とした活動のため、活動経費はリターンを期待する投資として見なされます。
作り手:昔の大企業、今の大企業
社友会があるのは、主に終身雇用時代の大企業です。但し、市場成長から取り残され、往時ほどの存在感を失った企業もあります。
企業アルムナイを立ち上げるのは、主に現在の大企業です。
いずれにせよ、コミュニティを成り立たせるには一定規模の卒業生数が必要で、自ずとある程度の歴史と規模がある大企業になります。
スタートアップや中小企業の場合、特殊な前提(卒業後の結びつきが強い、ニーズが強いなど)が成り立たないと、アルムナイを成功させるのは難しいです。
参加資格:定年退職者を含むか、現役ビジネスパーソン限定か
企業主催のアルムナイはビジネス目的の活動であり、ビジネスの世界から離れた定年退職者は参加資格がないところも多いです。
対して社友会は、勤め上げた人を労う場のため定年退職者が主な対象で、参加資格が「勤続20年以上」「一定の役職以上」という場合すらあります。
活動と参加者ベネフィット:余暇か、ビジネスか
社友会の活動は、ハイキング、俳句、ゴルフなどの余暇的なものが多く見受けられで、退職後の楽しみや社会的なつながりの維持といったベネフィットを主たる参加者である定年退職者に提供しています。
一方、企業アルムナイには現役ビジネスパーソンが、直接的・間接的にビジネスに繋がるベネフィットを期待して参加するため、活動内容は、セミナーやネットワーキングなどのイベントやビジネスマッチングが主となります。
関係性:階層を引きずるか、フラットか
そもそもコミュニティは、理念的には、参加者の現役時代の役職、現在の立場、在籍期間や年齢に関係なく、お互いが対等に交流する場です。
しかし、終身雇用時代にできた社友会には、定年を迎えた順に加入するので、現役時代の「先輩・後輩」や「上司・部下」の関係を引きずりがちです。
一方、近年の企業アルムナイは、転職が当たり前の時代にできており、中途入社や中途退職の人も普通ので、「お互い対等な社会人」という、コミュニティ本来の関係性に近づきます。
とはいえ、担当者がコミュニティに対する理解が乏しいと、無意識に階層を引きずった構造や文化にしてしまうこともあり、注意が必要です。
運営体制:階層的か、よりフラットか
運営体制でも似たような部分があります。
社友会では、「会長」は元社長、昔の役員が「理事」のような肩書で居並び、卒業生有志による事務局や企業側の窓口担当者で運営実務を担う、というのがよくある体制です。
一方、企業主催のアルムナイは、企業側の運営担当者のみか、企業側担当者+卒業生運営メンバー、というのが典型的で、社友会ほど階層的ではありません。
コミュニケーション:紙中心か、デジタル中心か
社友会は、平均年齢が70代で80代・90代という人もざらにいるので、ハガキや会報誌のような、紙での対応も維持せざるを得ません。紙はコストや工数がかかり、発送の頻度も限られるため、イベントも頻繁には案内できません。
一方、企業アルムナイに参加するのは現役ビジネスパーソンなので、Webサイトやメーリングリストで事務局からメンバーに低コストで頻繁に連絡できますし、SNSなどのコミュニケーションツール上で、メンバー同士も直接タイムリーにやり取りできます。よって、多様なイベントを頻繁に実施できるので、活性化もしやすいです。
比較を通じた、企業アルムナイの特性まとめ
社友会との比較を通じて、企業アルムナイの性質が一層はっきりしました。企業アルムナイは、自社の課題解決の手段なので、対象は現役ビジネスパーソンとなり、活動内容も、ビジネスの課題解決となる取り組みが中心です。
モノカルチャーで上下関係を維持しがちな社友会に対して、多様な人がフラットにつながるコミュニティ的な色合いが強い場で、ITにより、双方向かつタイムリーにコミュニケーションが行われます。
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