企業アルムナイについて話している際、時々議論がかみ合わないことがあります。
よくよく掘り下げると、同じ言葉で異なるものをイメージしていた、というのがよくある原因です。前提が異なれば、話がかみ合わないのも当然です。
例えば「アルムナイ」という時、以下のいずれを指すでしょうか。
- 卒業生(退職者)全体
- 卒業生全体の中で、参加資格がある人々
- アルムナイ・コミュニティ
- アルムナイ・コミュニティを運営するプラットフォーム
- アルムナイ・プラットフォームの登録者
また、「アルムナイに参加する」とは、以下のいずれでしょうか。
- アルムナイのプラットフォームに登録すること
- アルムナイのイベントに参加すること
上記はそれぞれ似て非なるものです。
そこで、アルムナイに関する様々な概念を混同することなく、有効にアルムナイを設計・構築できるよう、具体的に整理してみようと思います。
前提:企業アルムナイ=ビジネス現役の卒業生コミュニティ
近年日本で設立が相次ぐ企業の「アルムナイ」という言葉に、社会的、学術的に合意された定義があるわけではありません。
よって、本稿における「企業アルムナイ」の意味を予め定義しておきます。
本稿では、実態の最大公約数的に「企業を退職し、ビジネスなどで現役の人が参加する、卒業生コミュニティ」とします。
補足:「コミュニティ」とは何か
コミュニティの定義と分類だけでも1本の記事が書けるので、詳細は稿を改めますが、ここでは簡単に、以下の要件を満たす場、としておきましょう。
- 旗:何のための場であるか、目的や趣旨がある
- 軸:どんな人が(ヒトの軸)、何をする場か(コトの軸)が明確
- 関係性:
- オープン:基準を満たせば誰でも入れる
- フラット:メンバー同士は対等な関係
- 相互利益:メンバー同士、お互いに価値を提供し合う
- 持続・自発:発展的な継続を前提とした、自発的な活動
解像度を上げるために、例えば以下と比較すると分かりやすいでしょう。
- ネットワーク(人脈):オープンとは限らない。旗や軸が無くても成立可能
- イベント:参加者同士の横のつながりがない
- 組織:上下関係・指揮命令系統が前提=フラットではない
- プロジェクト:完了=終わりがある
非コミュニティ型アルムナイもあり得る
アルムナイの形態として、「非コミュニティ型」、すなわち、メールマガジンとHPだけで運営側がメンバーに情報を一方的にアナウンスする(=SNS的なツールを用いず、敢えて参加者同士のコミュニケーション制限する)ものもあり得ます。
外資系グローバル企業に多く見られる形態ですが、現状、日本におけるアルムナイは「コミュニティ型」が多く、話をシンプルにするために、本稿ではコミュニティ型を前提に話を進めます。
「人」の概念整理
「アルムナイ」という言葉が指し得るのはどんな「人々」なのか、という観点で、概念を整理すると以下のようになります。
卒業生(退職者)
その企業を退職した人々。
有資格者
卒業生の中で、企業アルムナイが定める「参加資格」を満たす人々。
例えば「ビジネスで現役の人」を条件とすれば、無職の人は除外されます。
因みに、大企業が終身雇用時代に作った、定年退職者の集まりに「社友会」と呼ばれるものがありますが、これは、目的も対象も「アルムナイ」とは異なるものとして区別しています。
補足:参加資格
参加資格は、基本条件と除外条件の2つで定義できます。
- 基本条件:「集合」の枠を定める要件(例:ビジネスで現役)
- 除外条件:集合の枠内だが、入れない例外の要件(例:懲戒での退職)
また、どこまでの範囲をアルムナイ・コミュニティへの参加可能にするかの線引きは、アルムナイごとに異なります。
範囲に関するよくある線引きは以下の通りです。
- ビジネスで現役の人のみか、無職の人も入れるか
- 年齢や退職形態(定年退職)で足切りするか
- 現役社員も入れるか、卒業生のみか
- どこまでの雇用形態を参加可能とするか(正社員、契約社員・・・)
- 本体のみか、グループ会社も入れるか、また、「グループ」の線引きは
基準は、運営側の目的や卒業生や会社の状況を踏まえ、運営側の意思で決めます。
但し、運営側の都合だけで決めるわけにはいきません。
対象者にとっても、自分が参加資格があるか、迷うことなく判断でき、かつ、快く入りたいと思える表現である必要があります。
参加基準の要件
1)合理:成果実現や価値構築に必要十分な範囲
2)明確:自分に参加資格があるかどうか迷わず判断できる
3)納得:心情的にも納得できる線引き
変に限定条件をつけると「自分は参加資格があるのだろうか」と迷わせることになります。人は迷ったら、基本はアクションしません。
また、たとえ明確でも、あまりに運営側の下心が露骨なら(例:40歳以下でPMクラスのエンジニア、とか)、基準から外れる人のみならず有資格者にも、良い印象は与えないでしょう。
ターゲット
有資格者の中で、運営側の目的を達成するために、望むアクションをしてもらうべき対象。
例えば、エンジニアのカムバック採用が目的なら、30代~40代前半のエンジニアがターゲットとなるでしょう。
有資格者の属性を分類し、その中からターゲットの絞り込みや、優先順位付けを行います。
実務的に使う属性は、例えば以下のようなものです。
- 現在の立場:経営者/起業家、個人事業、会社員・・・
- 年代
- 職種・専門性:技術、企画、事務系(経理/人事/法務)・・・
- 職位:トップ、役員、ミドルマネジメント、専門職、一般社員・・・
登録者(メンバー)
アルムナイ・プラットフォームに登録している人。
実際にアルムナイ・プラットフォームに登録するのは、有資格者の一部です。その中には、ターゲットも非ターゲットも含まれます。
補足:登録、参加、参画の区別
「登録」と「参加」
例えば、現役社員は、プラットフォームに登録はできないものの、イベントには参加できる、というように、アルムナイのメンバー(登録者)ではないが、アルムナイイベントに参加できる、というケースもあります。
登録と参加は、厳密には以下のように区別できるでしょう。
- アルムナイ・プラットフォームに「登録」する
- アルムナイ・コミュニティで行われる活動に「参加」する
「参加」と「参画」
また、自発的に他の参加者や場に価値をもたらす積極的な参加形態を「参画」と呼び、単にイベント等に参加する(一方的にメリットを享受する)ことと区別しても良いでしょう。
- プラットフォーム上でコンスタントに投稿やリアクションをする
- イベントに積極的に参加したり、運営を支援を買って出る
- 自主イベントを企画、実施する
コミュニティを活性化させるには、このような「ロイヤリティの高い参加者」を意識して生み出す必要があります。
「ターゲットだけを集める」ことは合理的か
コミュニティを手段として活用する場合、目的に即したターゲットのみを集めれば、目的が達成されるとは限りません。
参加者の自発的な活動であるコミュニティを用いて目的を達成するには、以下のような2段階を踏むことが、結果として、目指す成果を実現する近道だったりします。
1)場の魅力を高める
ターゲットが参加したくなるような幅広い属性の人々も増やし、ターゲットにとって価値を生み出すマッチングを実現可能な状態にして、ターゲットが参画したくなるような場にする。
2)成果につながる行動につなげる
そうして、ターゲットの人数増・関係強化・活動向上を実現し、結果として、運営側の目的達成につながるようにする。
また、前述の通り、企業側の思惑が丸出しの条件にすることは、ターゲットを含むメンバーの拒否反応を生むリスクがあります。
「実体」の概念整理
時々「アルムナイ・プラットフォームを構築すること」を、アルムナイをつくることと混同している人がいますが、両者は別ものです。
アルムナイの「実体」は、人と人とのつながり、その中でのやり取りや活動そのものであり、「アルムナイ・プラットフォーム」は、あくまでアルムナイの「実体」的な活動を促進・実現する基盤(手段)でしかありません。
仮に、アルムナイのプラットフォームを構築し、派手なPRで登録だけを徒らに増やしたところで、メンバー同士の関係ができていなければ、プラットフォームで投稿やリアクションする人はごくわずか。そんな状態でイベントを開催しても、行こうという気持ちになる人は限られるでしょう。
コミュニティ
人と人との”つながり”や、コミュニティ内の”やり取り(コミュニケーション)”や”活動(アクティビティ)”の総体。
これらの総体が、コミュニティの”実体”です。
プラットフォーム
コミュニティに具体的な形を与える基盤で、活動を促進する手段。
プラットフォームの基本機能は以下です。
- 登録 →つながりの構築/維持/可視化
- コミュニケーション →関係深化、活動活性化
アクティビティ(活動)
コミュニティをベースとしたさまざまな活動。
例:コミュニケーション、イベント、コンテンツの制作・発信など
なお、アルムナイ活動の主な目的は以下です。
- 未登録の有資格者(特にターゲット層)に新規登録をしてもらう
- メンバー同士の関係を構築、強化し、参画度合いを高める
- マッチングなどの価値を共創する
このように整理すると、アルムナイ・コミュニティを設計したり、仕組みや取り組みを具体化するに当たり、関係者間で前提がずれることなく、効果的に検討できるでしょう。
本稿が、より価値あるアルムナイ構築の一助となれば幸いです。
中央大学で「企業アルムナイ研究会」を実施しております。
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