企業アルムナイとは何か~比較で考える(vs.限定アルムナイ)

アルムナイ等のコミュニティ専門家が、長年の経験を基に、企業アルムナイを適切に立ち上げ、効果的に運営するための実践知をお伝えする「企業アルムナイの教科書」。

「似た取組み」との比較を通じて、アルムナイの特性をより解像度高く説明するシリーズの第5回の対象は、「限定アルムナイ」です。

限定アルムナイとは

限定アルムナイとは、部門や職種など、会社全体よりも狭い条件で参加資格を定めたアルムナイです。たとえば、特定の部門、職種、地域など、様々な切り口があり得ます。

成立の前提

単に属性を限定しただけで、限定アルムナイが成立するとは限りません。重要なのは「求心力」の核となるものがあることです。

たとえば、ある法人向けITビジネスの会社で、全体のアルムナイの他に、中小企業向け営業部門限定のアルムナイがあるところもあります。その部門のビジネスモデルが全体のものとことなり、独自の気風があるため、その部門の人限定の方が、しっくりくるからです。

また、ある電機メーカーでは、大半が家電の事業部門の中、新規事業としてコンピューター機器を作った部門が一時期存在しており、その部門も独特の文化が醸成されて結束力が強かったりします。

部門の他には、エンジニアや営業などの職種といった切り口や、場合によっては、ある時代に部門を率いた求心力の強い元リーダーなど、いずれにせよ、自分達とその他を分かつ、求心力の核となる要素があれば、限定アルムナイは成り立ちます。

「限定」の切り口例

部門以外の具体的な切り口と、その切り口のもつ特性について掘り下げます。

職種

エンジニア、営業など、同じ職種のアルムナイです。同業が集まることで、専門知識の共有やスキル向上を図れたり、採用案件など、キャリアアップの機会があるかもしれません。

一方、部門同様の理由で、マッチングの機会が減少し、インセンティブが弱くなる可能性もあります。

部門

ある部門に限定した切り口。その部門自体がなくなっている場合、新規の対象者が候補者が増えないので、長期的には自然消滅する可能性が高いです。

人(トップ)

カリスマ的なリーダーを中心とした集まり。最初から関係性が強いですが、中心となる人との距離感や、「取り巻き」との相性・好悪により、フラットでオープンなコミュニティにはならない可能性があります。コミュニティというより、ネットワークに近いものとなるでしょう。

時限のもの同様、新たな広がりもなく、核となる人やその周辺メンバーと共に「老化」するなら、辿り着く先は自然消滅です。

地域

物理的な距離が近いと対面で集まりやすく、直接会った方が関係を構築しやすいです。

しかし、全国に店舗展開している会社などでなければ、本社所在地など対象者の多い大都市以外では成り立たないでしょう。個々の地域で運営体制をつくるのは、有志運営ではちょっと厳しい気がするので、運営形態としては、独立というより、会社全体のアルムナイの中の分科会という形が自然かもしれません。

グループ会社

会社単位となれば、限定というより独立した1つの企業アルムナイです。グループ全体を対象とした企業アルムナイがあるなら、分科会や連合体のような形をとることとなるでしょう。

限定アルムナイの特性

主催:基本は有志

基本は卒業生有志です。企業が会社より対象を絞ったアルムナイを主催するのは不自然だからです(但し、グループ会社の場合、会社単位なので、公式になるでしょう)。会社主導で成り立つとしたら、公式の全社アルムナイ内の、分科会としての活動になると考えられます。

目的:情緒的なつながりのウェイトが高くなる

対象を絞ることで、人数も少なくなり、属性が絞られるため、ビジネス等のマッチングが成立する期待値は低くなるので、自ずから、情緒的な繋がりが核となるため、昔懐かしい仲間と再会する交流の会が多くなるでしょう。

例外としては、不動産やIT人材供給のような、同業同士が案件の出し手にも請け手にもなれるタイプのビジネスで、この場合、お互いの利害が一致するなら、むしろマッチング確率は上がるかもしれません。

文化:同質性が高くなる

範囲を絞った分、同質性や、情緒的な繋がりがより強くなります。全体の文化の土台の上に、部門など独自のカルチャーや経験を共有している人の集まりだからです。

運営:定常的な運営メンバーは必ずしも必要ではない

年に1〜2回の交流会程度であれば、常設の運営チームという程でなくとも、1〜若干名の幹事メンバーや、イベントごとの企画・運営メンバーで回すことができます。

システム:SNSがフィットしやすい

自主運営であれば、無料ツールとなります。近しいメンバー同士やり取りしたいと思うでしょうから、SNSがフィットするでしょう。

  • 参加者同士の関係ができていることも多い
  • 対象の範囲が限られているので、直接の知り合いでなくても、共通の知り合いが見つかりやすく、関係が作りやすい
  • 一体感も強いので、SNSのような参加者が直接コミュニケーションするツールでも、盛り上がりやすい

限定アルムナイのメリット・デメリット

メリット

限定アルムナイの大きなメリットは、求心力の強さです。人の集まりに参加する場合、誰向けの何の会かが分かりやすく、引きのある共通要素がある方が、参加のハードルが下がり、参加した場合でも話が盛り上がりやすいものです。

デメリット

範囲が限定されることで、持続可能性が弱くなる可能性が高いです。

  • 人数が少なくなる:条件が絞られるので、母集団が少なくなる
  • 属性の幅が狭くなる結果、ビジネスなどのマッチングが起きにくくなり、実利面での参加インセンティブが弱くなる
  • 部門が既になくなっているなどの場合、新しい候補者が増えない
  • 限られたなメンバーで、同じような企画が続くと、やがて飽きられ、先細りとなる(コミュニティの老衰)

企業アルムナイへの示唆

範囲を限定することで得られるベネフィットがあるということは、工夫次第で、全体のアルムナイをかっせいかするヒントにもなります。

求心力と多様性の塩梅

共通の経験や価値観を持てる属性に絞り込むほど、コミュニティに対する求心力が強くなり、一体感が出て、コミュニケーションの効率が高まります。

一方、属性が絞られるほど、一般的にはビジネス等のマッチングが成立しづらくなり、実利面での参加へのインセンティブが下がります。

参加資格を定義する際は、求心力が生まれる範囲や構造と、マッチングに繋がる多様性とのバランスを勘案することも重要、ということです。

分科会による補完

企業全体のアルムナイを運営する立場からすると、分科会的に、部門やグループ会社、職種、地域などの切り口での集まりを企画するのは、活性化のための一案となるでしょう。

個別の集まりを企画したり、分科会を仕切る幹事を募ることもでき、運営の体制を強化することもできます。

新陳代謝の構造をどう作るか

企業全体のアルムナイコミュニティを長期的に維持するためには、新規メンバーが入ることが必要です。同じ面子で代わり映えしないことを続けていれば、飽きられて参加者が減り、縮小の一途を辿るからです。

参加資格に期限の要素が入るなどで、有資格者が新規に増えない構造があると、新陳代謝が必ず止まるので、注意が必要です。

終わりあるものと割り切るのも一案

一方、敢えて継続を前提とはしないのも一案です。明確な起源や条件を定めるやり方もありますし、いつか終わるものと割り切りながらやるという考え方もあります。

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企業アルムナイについて正しく理解することは、その設計や構築、さまざまな判断を行う際に大いに役立ちます。本記事が、企業アルムナイを効果的に運営できる人が増え、価値ある企業アルムナイが増える一助となれば幸いです。

企業アルムナイ研究会のイベントは以下よりどうぞ。

https://corp-alumni-lab.peatix.com