カオスマップを作る際の、最も重要なこと

自身が作成したカオスマップがメディアに掲載されて、業界の誰もが知るまで拡散した経験を元に、カオスマップについて徹底解説してみようと思います。

業界の商品やサービスをカテゴライズして一覧化したもの

そもそもカオスマップが何かというと、上記の定義となります。ポイントは「カテゴライズ」と「一覧化」で、単に羅列されているだけでは情報としての意味がありません。一覧とは、読み手にとって過不足ない状態であるべきで、つまり、多すぎても少なすぎてもよくありません。

「読み手」の定義が最も重要

では「読み手」とは誰か。すぐ思いつくところでいえば、その業界の経営や事業開発に携わる人でしょう。

既存プレイヤーであれば、自分たちのビジネスモデルを脅かす者は誰か、自社の強みを活かして新規に参入できる隣接市場はないか、などを考える素材にするでしょう。

スタートアップなどの新規参入者であれば、自分たちに参入しようとしている市場はどこなのか、どんなプレイヤーがいるのか、隣接市場も含めてどのような構造になっているかなどを考える材料となります。

読み手とその関心や目的が定まることによって、どこまでのサービスをピックアップし、どこからは対象外とするかが決まります。

時々見る残念なカオスマップの典型として、範囲が表面的すぎる場合と、範囲が広すぎる場合とがあります。

例えば不動産テックのマップの読み手は不動産業界の人々なので、契約手続きを効率化する電子契約や、物件管理業務を効率するスマートロック、物件売買や賃貸のビジネスをだいたいする可能性のある店舗や住居のシェアリングなど、自身のビジネスの収益構造を良くも悪くも変えるものを知りたいはずです。

それぞれ通常はリーガルテック、IoT、シェアリングエコノミーといった別領域にカバーされるものですが、読み手の関心から考えれば入れるべきものと考えます。

よくある残念なカオスマップは、このような読み手のビジネスモデルへの理解が浅く、本来カバーすべきものが入っていなくて、単に「XXテック」など、表面的な検索で出てきたものだけで作られているものです。そういうものは業界の人から見て「おっ!」と思う発見がないのでスルーされます。

カオスマップのつくり方-配布用 (2)

逆に範囲が絞れておらず、過剰なものもあります。マップに載せるロゴの数は多くても300くらいではないかと思いますが、それを遥かに超える企業を載せているものも見たことがあります。それは情報量が過剰で、カテゴリも意味をなしていないので、読み手にとって価値がないと考えます。マップではなくリストにするか、より対象を絞って、適切な情報量と範囲にすべきでしょう。

「読み手」が1つではないのが難しさ

問題は、その「読み手」とは1つの属性に絞れないことです。不動産テックのマップを作った際に気づいたのは、「不動産業界」といっても様々なビジネスモデルがあります。不動産の売買・仲介・メディア、不動産金融、住宅、商業施設、オフィスなど物件種別によってもビジネスは異なりますし、開発業者なのか二次流通なのかでも性質は異なります。リノベーションやプロパティマネジメントなど、周辺サービスも数多くあります。

つまり、不動産テックのスタートアップだけを想定しても意味がありませんし(そもそも上記に該当するぞれぞれのをテクノロジーで破壊しようとするものなので、自明のカテゴリがない)、不動産デベロッパーのみでは対象が狭すぎます。

また、事業会社だけではなく、その分野の専門家、例えば不動産なら、弁護士、不動産鑑定士などもいます。コンサルタント、アナリスト、キャピタリストなど、様々なプロフェッショナルもいるでしょう。場合によってはアカデミックの人々も見るかもしれません。

それら複数のプレイヤーの視点で複眼的に見なければ、ごく僅かの層にしか響かないマップにならざるを得ません。

カバーすべき多様な「読み手」の可能性を想定し、そういった人々がどんな理由で、どんなことに関心を持つのか、その最大公約数はどこか、どこまでの読み手を対象として、どこからは対象外、あるいは優先順位を下げるのかなどを掘り下げていくと、素人目に見てわかりやすいだけでなく、玄人が見ても「よくわかっている」と感じられるマップになります。

「発見」が本当の価値

ターゲットたる「読み手」がマップから得る価値は、自分で調べ、分析し、まとめる工数を削減することであり、さらに、そこから新たな機会や脅威の可能性を発見することです。

業界のなかで経営や事業のことを考える人にとって、マップにあるカテゴリーや企業の大部分は知っていることが普通でしょうが、カバーすべき範囲を漏らさず、その中で調べ尽くすまでしていることは少ないでしょう。

日々の仕事の中でなんとなく頭の中に入り、大まかに分類している記憶を、明示的・包括的にカバーして分類された情報にした、その差分が一つの価値となります。人によっては気づいていなかった未来への示唆を見出すかもしれません。そこまでいけたものは、非常に価値があると言えます。

逆に言えば、単にちょっと調べただけで、深掘りしたとまで言えないものを並べただけならば、ほんの少しの作業工数分でしかななりません。そもそも頭の中に入っていて、なんの発見もない、わざわざ可視化するまでのものでもないものなら、見る価値もありません。

調べながら境界が見えてくるのが実情

上記はもちろん最終的な理想形です。実際、不動産業界にいる人であっても、全てのカテゴリーを最初から知っているわけではありません。調べていく内にビジネスモデルやエコノミクスを理解し、プレイヤーの競争戦略が見えてきて、関心がわかってくるのです。

それが実際のプロセスですし、考えて調べることでそれがわかることが、実は作ることの最大のベネフィットだったりもします。

著書:オンラインセミナーの方法論