自分の知りたいことを効果的に学ぶために「学びたい講座を自分でつくる」考え方とプロセスを、誰でもできるように詳しく説明します。
前回のシナリオ編では「司法試験合格を目指す大学生が、自分のための勉強会を成立させるにはどうすれば良いか」というケースに対して、実現させるためのシナリオを考えてみました。
企画編では、それを具体的な企画に落とし込むまでを説明します。
前編では、ターゲットと講師からコンテンツを具体化するまでを詳述します。
案内文から書き始めると、企画を具体化しやすい
理由は以下の通りです。
・ターゲットと項目が絞れ、まとめやすくなる
・最初から案内文で講師の了解をもらうので、手戻りが避けられる
(企画書がOKでも、案内文の段階で直しが入ることを避けられる)
Googleドキュメントに下書きし、欄外に講師謝礼額など、関係者との確認事項を記録して、1つのドキュメントにまとめます。
Step1:基本要素を整理する
案内文とは、ターゲットに参加の意思決定をしてもらうために、相手の思考に沿って価値が伝わるように情報を構成したものです。
基本要素が整理されていないと書けないので、まずは主な要素を整理します。
誰が(Who):新司法試験で合格した弁護士
誰に(Whom):司法試験の受験生
何を(What):論文を書くコツと勉強法
どのように(How):少人数で個別にフィードバックしてくれるゼミ
価値の理由(Why):短答式と比べ、自習が難しいから
必要に応じて、補強や具体化のための要素も追加します。
講師が語るに値する根拠
→「独自の方法論を確立して、短期間で合格した」弁護士
ターゲットの具体化・絞り込み
→「短答式は合格水準に達しているが、論文に課題を感じている」受験生
Step2:概要を「一言で」表現する
要素の中から、相手のニーズやレベル感に応じて、無いと意味が通じない基本要素や、ターゲットに対して売りになるものを選び、自明なものや弱いものは削ります。
それを、速読でも理解できるように言葉を選び、並べ替えます。
現役弁護士から、論文試験のコツと勉強法を学ぶ、少人数の勉強会
Step3:仮タイトルをつける
タイトルは、最初に見られ「直感的に案内文を見るか」を瞬時に判断する材料であるため、最も重要であり、難しいものです。
全体を詳細まで落とし込んだ後に確定させるものではありますが、全体の方向性をブラさないように、最初の段階で仮でつけることも有効です。
How to say(どう表現するか)から考えると素人が奇をてらった感が出るので、地味でいいのでWhat to say(何を伝えるか)から考えます。
タイトルはリードを読ませ、補完するもの
タイトルの機能は、ターゲットに中身と価値の最も核となる価値を伝え、リードの第一文を読ませることです。
タイトルとリードの関係は、タイトルで持たせた興味や疑問に対して、具体的内容を伝える補完的なものにするのが基本です。
ここに使える文字数はせいぜい30字ので、機能的に明確な理由がない限りは、同じ言葉や表現は避けます。
今回は、法学部ではないながら独学で司法試験に合格した架空の人物を講師として、以下のようなタイトルをつけてみます。
法律知識ゼロから2年で司法試験に合格したXX弁護士による論文対策ゼミ
現役弁護士から、論文試験のコツと勉強法を学ぶ、少人数の勉強会を開催します。
Step4:ターゲットを具体化し、核となる価値を整合させる
ターゲットとは「講座とその関係者の目的を達成するために来て欲しい人」であり、来そうな人ではありません。
今回のケースで言えば、司法試験受験生全般ではなく、合格圏内の受験生です。
狙った客層が反応するようにするには、例えば以下の方法があります。
・読み手が自己判断できるような具体的な定義をする
・ターゲットにのみ刺さる価値を提示する
ターゲットをより具体的に定義してみると以下のようになるでしょう。
◆この講座が役に立つ方
・今年の司法試験合格を目指す方
・選択式は安定的に合格判定を出せるが、論文の成績安定に課題を感じる方
また、ターゲットとその課題が絞れれば、提供すべき課題解決や価値も明らかになるので、ターゲットに刺さる価値の提示もしやすくなります。
このケースでは、論文の実力は向上させたいが、予備校の講座にお金を使いたくないので、独学の方法を学びたい人、と仮定しました。
そのニーズを満たすのは、論文の独学法を持つ人が望ましいでしょう。
方法論を限られた時間で理解するには、自分に合わせた個別のフィードバックし、質問にじっくり答えてくれる必要があると、ターゲットは考えるでしょう。
◆この講座のポイント
・知識ゼロから独学2年間で合格した弁護士による効果的な独習メソッド
・受験生の論文への公開フィードバックや質疑の時間も多く取ります
Step5:価値を補強・構成する
これまで挙げてきたターゲットにとっての価値要素を編集して文章に仕上げます。
必要に応じて価値の根拠となる情報や、さらなる価値を付加します。
講師、方法論、参加者といった「素材」の価値を見出し、講座自体の構成から価値を作り出します。
「素材」の価値を定義する
方法論:法律知識ゼロから2年で合格した独学法を学べる
講師(実務):大手事務所で活躍、著名案件を手がける、論文も発表
講師(教育):法科大学院で講師を務める
参加者:合格可能性の高い、実力も意識も高い受験生との関係構築「構成」により価値を生み出す
・十分な質疑応答→少人数・インタラクティブで、じっくり学べる
・受験生の論文にフィードバック→陥りやすいミスや改善点がわかる
・懇親会→就職活動や実務のこともフランクに聞ける
弁護士xビジネス経験、弁護士x講師としての登壇実績など、価値と価値の組み合わせにより希少価値をだす方法もあります。
価値を伝える時に気をつけることはいくつかあります。
a. 焦点を絞り、必要十分で過不足ない量にする
アピールポイントがあるとついゴテゴテとつけたくなりますが、焦点を絞って各要素が整合し、読み手が理解するのに多すぎない分量にします。
b. 能書きではなく、根拠で納得させる
能書きとは、薬について「こんな効果があります」という説明です。
売りたい当人が「これは価値がある」と主張したところで、受け手は信じないでしょう。
それよりも、効果が出るメカニズムと、それが成立する客観的根拠を合理的に構成することで、相手の方から「ああ、それはXXという効果があるのですね」と自ら納得するようにする方が効果的でしょう。
課題解決のメカニズムを言語化してみると構成しやすくなります。
ターゲット:論文試験の成績に安定を欠く、司法試験受験生
理想:論文模試で安定的に合格判定が出せる
現状:論文模試の成績が安定しない
原因:論文のポイントや勉強法が明確に理解できていないため
解決策:専門家が、自分に合った形で個別に教えてくれる
コンテンツ:自分の論文への個別フィードバック、有効な勉強法
解決メカニズム:自分の理解不足や考え方を正しく修正する
課題解決の価値:弁護士となり社会的地位と安定的高収入を得る
ちなみに、価値の根拠は直接的な根拠と間接的な根拠とがあります。
直接根拠:検証可能な実績、業界の評判、過去の受講生の成果や評価
間接根拠:所属・役職、学歴・成績、著書や記事など
直接的な根拠の方が強いですが、分量や整合性の観点で敢えて削る必要がなければ書いておいても良いと思います。
c.ターゲットに合わせる
相手の課題認識のレベルも様々です。
解決策まで明確ならコンテンツを解決策として提示すればいいですし、課題までが明確なら課題を、課題がまだ明確に意識されていない状態なら不満や不安の状況を提示する、といった具合です。
何を価値と思うかはターゲットが正であり、自分の価値観やこだわりを入れる必要はありません。
今は弁護士もいろいろ大変なので「安定的に高い収入が得られる」というのは必ずしも客観的事実ではないかもしれませんが、読み手が「主観的に」そう思っていれば、それが読み手にとっての「正」であると、案内文の段階では割り切りましょう。
また、同じ講師・コンテンツでも、何を価値として前面に出すかによって、反応する層が変わってきます。
権威や知名度を好む層もいれば、実績・実質を好む層もいます。
論理的な提示を好む層もいれば、扇情的・断定的な書き方が響く層もいます。
相手に目線を合わせるのが理想です。
とはいうものの、40代男性が女子高生に刺さる企画・発信をするのが難しいように、自身の属性や資質から離れることも難しいので、基本は自分もユーザーであるようなものにするのが無難です。
上記を勘案し、今回のケースでは以下のように作文してみました。
講師は理工学部出身ながら、独自の方法論を編み出して2年で司法試験に合格し、現在は大手〇〇事務所で活躍するXX先生。
法律知識ゼロの状態から独学で論文をマスターした方法論をレクチャーいただきます。
実際の論文に公開フィードバックするため、当落線上レベルの受験生が陥りがちなミスや改善点が具体的に分かります。質疑応答や懇親の時間も十分に取りますので、試験対策だけでなく、就職活動や実務の話もじっくり聞けます。
Step6:「語るに値する根拠」として略歴を構成する
タイトルやリードを見て興味を持った読み手が次に考えるのは「この講師は語るに値する者なのか」であり、それを確かめるために略歴を見るでしょう。
講師の概略は、冒頭で価値を信じてもらう必要最低限の情報は記載しています。
略歴では信憑性を補強したり、更なる価値を提示したりします。
補強する要素の候補は、これまでの整理の中で揃っているので、ターゲットに合わせて、過不足ない分量で記載します。
講師:XX XX氏
<XXX弁護士事務所 弁護士、XX大学大学院法務研究科 講師>
慶應義塾大学理工学部在学中に、エンジニアをビジネスと法律の側面から支援することを志し、独学で司法試験の勉強を始める。
慣れない法律用語に当初苦労するも、法律を論理的に分析する勉強法を独自に確立したことで短期間で成績を急上昇させ、予備試験から論文試験までわずか2年で合格する。
XXXX年大手XXX事務所入所。知財分野を得意とし、XXX、XXXなどの案件を手がける。
次回:登壇者価値と運営観点からの具体化
今回はターゲットの観点から講師とコンテンツの価値を整合させていきました。
しかし、講座は講師や会場提供者のOKをもらわなければ成立しないので、関係者にとっても価値が明確なものにしなければなりません。
また、収支やオペレーション、ターゲットの制約条件にも合わせないと、成立しても持続可能ではなくなります。
次回・後編ではこれらの観点から、講座の内容を最終的に落とし込む考え方について説明します。
自分の知りたいことを効果的に学ぶために「学びたい講座を自分でつくる」考え方とプロセスを、誰でもできるように詳しく説明します。 「司法試験合格を目指す大学生が、自分のための勉強会を成立させるにはどうすれば良いか」というケースに対し[…]