講座をプロデュースする方法 〜1.シナリオ編

自分の知りたいことを効果的に学ぶために「学びたい講座を自分でつくる」考え方とプロセスを、誰でもできるように詳しく説明します。

本稿は、自分が学ぶために他の講師を招いて講座を作る「プロデュース」の考え方です。

自身が講師となって講座を作る場合はこちらをご覧下さい。

note(ノート)

以下の記事の内容をスライドにしたので共有します…

学びを得る第4の方法

例えば、ウェブサイトを自分で作れるようになるには、以下のいずれかの方法が一般的でしょう。

1)公開講座を受講する
2)独学する
3)プロに個人指導してもらう

公開講座はこなれているものの、自分のニーズに完全合致することはありません。
独学は安上がりですが、挫折しやすく学習効率も悪く、個人指導はそれらの問題を全て解決しますが、高くつきます。

そこで私がお勧めするのが第4の選択肢です。

4)自分のニーズにあった講座を、自分で企画する

大変なこともありますが、それを上回る様々なメリットがあります。

1)自分のニーズに合わせて学べる
2)経費を参加費で賄えれば、自己負担が減る
3)当事者意識が高まり、学びが深くなる
4)講師との関係が作れる

「何もない学生でもできますか?」

ある大学生にそう説いたところ、こう聞かれました。

私の答えは「YES」。

もちろん、知名度や決裁権、個人的つながりがあった方がOKをもらいやすいいことは事実です。
しかし、だからといって登壇してくれる訳でもありません。

登壇に見合う価値を提供できなければ、一度か二度はお付き合いしてくれても、継続はしないでしょう。

逆に、相手のニーズに刺さる提案をして、正しいシナリオで交渉すれば、大企業のトップに大代表から連絡したとしても、快諾してもらえたりもします。

本稿では、私がその「何もない大学生」だとして、自分のための講座をどう形にするかの考え方と進め方を、具体的なケースで説明します。

Step1:自分の目的とベネフィットを考える

企画の中身より前に考えるべきは「この講座を作ることを通じて自分が得たいものは何か」です。
言い換えれば、目的やゴールです。

彼は司法試験の合格を目指す受験生とのこと。
試験合格には、論文試験対策が最も重要だと言います。

予備校の講座もありますが、それなりに良い値段ですし、他にたくさん受講生がいて、個別にアドバイスをもらうの難しそうです。

自分の論文対策のために、個別フィードバックをしてもらえる講座を作ることを、今回のゴールとしましょう。

Step2:「それは他の人も必要とするか」

自分に必要なだけでは、講座は成立しません。
他の人のニーズも満たさなければ、参加者が集まらないからです。

よって、コンテンツとターゲットを整合させる必要があります。
個別性が強すぎる場合、どう汎用化してターゲットを広げるかを考えます。

但し、ターゲットは広げれば良いというものではありません。
ターゲットが広がればニーズの異なる層が混じり、内容も薄くなるので、満足度が下がるからです。

さて今回のケースはどうでしょう。

各人の課題に手厚く答えてくれる割安な講座は、既存講座の不満を解消したものであり、行きたいという人は少なくないでしょう。

自分が主体となって企画・アレンジまでしようと思う人は少ないものですが、現役弁護士が来る勉強会があれば参加したいという人は多くいるでしょう。

もしこれを「選択式の対策」まで広げてしまうと焦点がぼやけ、論文対策したい人、選択式対策したい人、両方が不満に思うでしょう。

ターゲットを絞り過ぎて講座が不成立になるのは避けたいですが、適切に絞ることが大事です。

なお、ここで決めたターゲットは仮置きです。
企画を具体化する中で、登壇者などの関係者が求めるターゲットに寄せることもあるためです。

Step3:副次的ベネフィットも洗い出す

自分の主目的とターゲットのベネフィットの辻褄が合いそうなら、更に自分にとっての他のベネフィットも洗い出します。

やるべき理由や価値が明確なほど、自分を支えられるからです。

例えば、以下が考えられるでしょう。

・法律と現実のビジネスと紐づけられ、理解が進む
・仕事で活躍するイメージが湧き、モチベーションが上がる
・修習後の就職活動で役立つ関係構築ができる

打算は見え透くので逆効果ですが、明確な目的と正しいインセンティブは、良いものを作るのには欠かせません。

Step4:使えるリソースと制約を明らかにする

典型的なリソースは、時間とお金です。

勉強会の企画・アレンジに時間を割きすぎて勉強時間を減らすのは本末転倒です。
工数上限は決めておきましょう。

試験後に講座を実施しても無意味ですから、期限も自ずと決まります。

収支やキャッシュフローはマイナスにしない

他の人のために工数を割いているのに自分が赤字を被ったら、心が折れます。

講師料・会場代・備品や諸経費などの原価は、参加費などで賄い、自己負担しないようにしましょう。

企画・アレンジの工数や付加価値も、本来賄われるべきものです。

持続可能性の観点からも、提供価値に対する妥当な対価は得るべきです。
対価に値するものを提供すべく自分を律すればよく、それが参加者のベネフィットにもなります。

剰余金をどうするか

赤字にならないようにすると、少額の余剰金が発生します。
それは営利とは言いません。気になるのなら、

・「非営利イベントですが、運営上、剰余金は発生する」と明示する
・懇親会の費用に充て、還元する(但し、行かない人には不公平)
・収支を公開する
・剰余金は○○に寄付をすると明示する

など、方針と手続を明示すれば良いでしょう。

Step5:登壇者視点で「登壇すべき理由」を設計する

「私に利益があるので登壇して下さい」と言われても、受ける気にはならないでしょう。
しかし、修飾語を削るとそんな依頼になっているケースは案外あるものです。

相手の「この登壇で私が得るものは何か、私が登壇しなければならない必然性は?」という問いに、端的で説得力ある答えを用意しなければなりません。

企画を作ってからその提案を考えるのではなく、企画自体に相手が登壇するベネフィットと必然性が織り込まれているべきです。

とはいえ、”何もない一大学生”がどうして価値を作れるのでしょうか。

参加費で考えると詰まる

通常、講師料は何十万円かはかかります。
参加費を1人3,000円とすると、20万円なら70人近く、30万円なら100人となり、そんな大規模では、到底個別のフィードバックなど受けられず、企画の前提が崩れます。

参加費を値上げすれば参加者が減り、講師料を理由もなく値切っても、相手はそれを受ける必然性がありません。

本業に繋がる価値をつくれないか

実は、弁護士にとって、登壇でもらう謝礼など大した額ではありません。
大企業の研修やマーケティングなど、予算があるところからは高く取り、そうでないところは相手に合わせる人も少なくありません。

参加費収入ではどうしようもないことが明らかなら、本業に繋がる何かを提供する方がいいのです。

例えば、近い将来に顧客になりそうな層が参加することを示せれば、1クライアント獲得できればその価値は1億円、50人に1人でもいれば、200万円の価値相当か…、などと頭の中で皮算用するかもしれません。

今回は受験生ばかりなので、見込顧客は難しそうですが、将来の採用ターゲットにはなりそうです。

そうなると、採用コストは1人あたりくらとか、弁護士1人あたりどれだけの収益貢献するといった計算になります。

どんなレベルの人がどれくらい来そうかという材料を示せれば、登壇ベネフィットを算定する根拠にできます。

まあ、優先順位で言えば今の修習生の方が圧倒的に高いですが、新たな機会をあまり工数をかけずに手に入れられるなら、悪い選択ではないと思う人もいるでしょう。

相手のニーズを把握する方法

学生と弁護士のような、自分と全く境遇が異なる相手のニーズを理解するには、以下の方法があるでしょう。

1)分析・推測する
1つは、相手の立場になったとして何が嬉しいかを推測してみることです。特に、相手は、誰のどんなニーズにどんな価値を提供してどんな対価を得ているのか、誰にどう評価されるのか、競争上重要な要素は何かといった構造を考え、相手の必要なことの中で、自分の提供可能なことを推測することです。

2)調べる
もう1つは、情報を検索したり、同じ立場や似た立場の人に聞くなりして確認することです。
他に、自分と同じことをしている人に聞いたり、やっている事の詳細を見てみることもヒントになるでしょう。

3)検証する
実際にターゲット本人やターゲット相当の人に提案して反応をみる、フィードバックを受けることです。

相手価値が明確になれば、ターゲットや設計も絞られる

そうなると相手の価値を成立させるには、相手が採用したいレベルの人を一定数集める必要があることがわかります。

より良い形で関係性を構築するために、どのようなコミュニケーション設計にすればいいかも具体化します。

「価値の差」を見出す

学生と一線の弁護士のように、経験や地位に圧倒的差があるように見える場合、自分は何も相手に与えられるものがないと思ってしまうかもしれません。

しかし実際は、そうではありません。

今回で言えば、将来の採用ターゲットとなる優秀な予備校生や受験生を集めることです。
できなくはないでしょうが、単価の高い弁護士の工数をかけてやるには見合わないものだからです。

そのように、相手が必要としているが手に入れることが難しいもので、自分は相対的に容易に手に入れられるものを見出し、それを「トレード」するのです。

相手のニーズを知り、自分の「アセット」を洗い出してみましょう。

それがわかれば、優秀な受験生をつなげる仕組みを作るなど、普段の活動の中でそういう時の交渉力に繋がる材料を蓄積していくこともできます。

付加的な交渉材料も考えてみる

価値はトータルで考えるものなので、他の価値も出せないかも考えてみます。

記事化などでPRに役立つ、実績としてアピールできるような(その結果、案件獲得率や単価をアップできる可能性のある)有名な大学や企業での登壇など、色々あるでしょう。
それらも企画に折り込みます。

もちろんこれらは副次的な価値であり、相手の主として必要とする価値を提供できていることが前提です。

相手の負荷を減らす

同じ価値を得るために必要な相手のリソースを抑えてあげることも価値になります。

登壇をお願いしようと思う人は大抵多忙で時間単価も高いです。

資料の準備など不要で、当日身一つで行けば済む設計にすれば、登壇時間+移動時間(オンラインなら移動の時間すら無くなります)で済みます。

もちろん、単に減らして得たいベネフィットを損なっては本末転倒です。
時間は取られるが、接点を深めるためには懇親会もセットの方が良いだろう、など、目的と照らし合わせた判断が必要です。

Step6:他の関係者とも相互利益を成立させていく

他に関係者がある場合もあります。例えば会場代を抑えるために会場提供者を探す場合、どうすればいいでしょうか。

この場合もベネフィット設計がキモになります。

例えば、大手弁護士事務所のようなところでは、お金のやりとりの発生するようなイベントに会場提供することは難しいことが多いので、ある程度マネジメントの一存で意思決定できる事務所に、別途お願いする方がいいでしょう。

その弁護士事務所にとっても、講師や受講生とのコネクションができることは嬉しいことかもしれません。

講師や受講生の目処が立てば、その交渉もしやすくなります。

そのようにして、異なる立場の人々の、そのままでは成立しないベネフィットを具体的に形にすることが、仲立ちとなるプロデューサーの付加価値なのです。

Step7:提案実行を通じて「仮説」を検証する

この時点ではあくまで仮説でしかありませんが、前述のように、相手のニーズを推測し、提案により検証をして、相手ニーズと提供価値を整合するようチューニングします。

うまく噛み合えば、あとは確率とタイミングの問題で、実現に向けた行動を継続していれば、誰かしらOKしてくれる人は出てくるものです。

次回:企画の具体化に向けて

このような「設計」をした上で、企画を具体化し、実現のアレンジをしていきます。

次回は、企画を具体化する考え方について、詳しく説明します。

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