企業アルムナイとは何か~比較で考える(vs.非コミュニティ型の企業アルムナイ)

アルムナイ等のコミュニティ専門家が、長年の経験を基に、企業アルムナイを適切に立ち上げ、効果的に運営するための実践知をお伝えする「企業アルムナイの教科書」。

「似た取組み」との比較を通じて、アルムナイの特性をより解像度高く説明するシリーズの第4回の対象は「非コミュニティ型 企業アルムナイ」。

比較によりそれぞれの特徴や適合ケースを明らかにします。自社のアルムナイのあり方を考える際の参考として頂ければ幸いです。

非コミュニティ型アルムナイとは

「企業アルムナイ=コミュニティ」とは限りません。ウェブサイトとメーリングリストだけでシンプルに運営しているところもあり、これを「非コミュニティ型アルムナイ」と呼ぶことにしました。

実際、企業アルムナイについて調べていると、外資系企業でよくこのパターンを採用しています。言語、文化、居住地が異なる人々を一つのプラットフォームに集めても、積極的な交流が生まれにくく、コミュニティが適さないのだと推察します。

非コミュニティ型の特徴

コミュニティ型、非コミュニティ型、いずれの企業アルムナイも、以下の点は共通しています。

  • 目的:企業が自社の課題解決のため、
  • 対象:ビジネス等で現役の自社卒業生に、
  • 活動:参加者のビジネス上の課題解決に繋がるコンテンツを提供する

一方、違いは以下のような点です。

構造:「1対多」のコミュニケーション

参加者同士が繋がり、「多 対 多」で相互にコミュニケーションできるコミュニティ型は、参加者同士で自発的に盛り上がる可能性はありますが、ファシリテーションや対応にスキルや工数が必要になります。

そのようなコストを抑えて効率的に運営するため、敢えてコミュニティにはせず、事務局から参加者に一方的に連絡するだけの「1対多」の構造にするのが、「非コミュニティ型」の特徴です。

ツール:「1対多」の手段だけで成立

ITツールも、運営側からの一方向的な情報提供ができれば十分なので、Webサイトやメーリングリストで成り立ちます。参加者同士が繋がらないようにするため、SNSのようなツールは敢えて導入しません。

コンテンツ:公式主体、非同期活用が可能なアセット型を多用

基本は運営側から参加者に一方向で案内するので、イベント等のコンテンツは公式のものが主となります。

また、外資系のように、メンバーのいる地域がグローバルに分散している場合、対面はもちろん、オンラインでもリアルタイムに集まることは困難なので、インタビュー記事やセミナー動画をアーカイブして、各メンバーが自分のタイミングで活用できる「アセット型」コンテンツを提供するケースが多く見られます。

目的達成:直接的なアプローチ

これらの違いは、企業の目的達成のステップにも影響します。

コミュニティ型の、場合、まずは、参加者の目的を達成させ、その結果として自発的に主催者が望む行動を取ってもらう「間接的」アプローチとなります。

一方、コミュニティを活用しない場合、採用案件やキャリアイベントの案内など、直接的に自社の成果につなげるアプローチの割合が高くなります。

実際、ある総合コンサルティング企業の卒業生は、アルムナイのメーリングリストから採用案件やキャリアセミナーの案内が毎日のように届き、「鬱陶しい」と感じていると話していました。

非コミュニティ型が適合するケース

アルムナイを運営する企業側の観点で、どのようなところが非コミュニティ型がフィットするかを考えます。

コミュニティ型が成立しにくい前提条件をもつ

  • 言語や文化が多様で、統一したコミュニケーションが難しい
  • 事業や部門の独立性が高く、共通の関心や話題が乏しい
  • 参加者のいる地域が広く分散しており、関係を構築しにくい

企業文化がコミュニティ的ではない

  • 必要な人とのみ、必要な時だけつながれば十分とする価値観がある
  • 従業員同士や部門間のつながりが希薄
  • 会社に対する情緒的な帰属意識が少ない

非コミュニティ型の方が合理的

  • 直接的なビジネスリターンを志向する
  • リソースに制約がある(工数、スキル)

外資系だからといって、非コミュニティ型とは限らない

上記の特徴をもつのは外資系企業に多く、私がこれまで見た非コミュニティ型も全て外資系企業のアルムナイでした。しかし、外資系だからといって、非コミュニティ型が適するとは限りません。

例えば、シリコンバレー・スタートアップなどは企業文化や一体感を重視するところが多く、そのような出自をもつGoogleなどでは、活発なコミュニティ型アルムナイが成立しています。

また、マッキンゼーやBCGといった戦略コンサルティング企業では、企業側が卒業生と繋がることに注力しており、グローバルで統一の施策を取りつつも、各国にアルムナイ担当のパートナーを配置し、地域レベルでの活発なアルムナイ交流を行っています。

非コミュニティ型のノウハウを活用する

コミュニティ型のアルムナイ運営においても、非コミュニティ型のノウハウを活用して効率を上げられます。

例えば、メーリングリストやウェブサイトなどの「1対多」のコミュニケーション手段を組み合わせることで、効率的に多くのメンバーへ情報を届けることが可能です。

また、いつでも利用できる「アセット型」コンテンツを蓄積し、運営チームが稼働していない時間でも、参加者に価値を提供することもできます。

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企業アルムナイについて正しく理解することは、その設計や構築、さまざまな判断を行う際に大いに役立ちます。本記事が、企業アルムナイを効果的に運営できる人が増え、価値ある企業アルムナイが増える一助となれば幸いです。

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